タイムスリップ物語 13

「幸江さんいらっしゃいますか?隼人です。ただいま戻りました」
夕方、舞と隼人は江戸郊外のとある農家を訪ねた。
ここが、10年前幼い隼人を拾ってくれたという
女性が住む家らしい。
名前は、原田幸江という。
隼人が中へ入って確認すると、舞を手招きした。
舞も静かに中へ入ると、狭い部屋の奥に正座した女性がいた。
「…幸江さん。また、10年ぶりに、未来から
やって来たという人間がいて、連れてきました」
隼人がそう言うと、幸江はこちらへ振り向いた。
じっと舞の、姿を見てから、確認を取る。
「貴女が、未来から来た人ですかね…?」
舞はかしこまる。
「あ、はい。その、21世紀から来ました…」
「どのような状況で連れて来られたの?」
「高校の修学旅行で、友達と大阪城に行った時に、
大阪城の中でこちらに世界に迷い込んでしまいました」
「そう」
原田幸江は50歳くらい。姿はこの時代の農民そのものだが、
部屋の中には未来にしかない道具が一部飾られていた。
「…隼人は、私のことを紹介したの?」
「はい。俺も最初はビックリして、でも本当のことだから、
とりあえず幸江さんに会わせようと思い…」
「そう。…お嬢さん、座りなさい。ゆっくり、
私と話をしましょう。隼人も座って」
舞は隼人を交え、今までの経緯を話した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……ってワケなんです」
「それは大変だったわねぇ」
幸江は舞の話に共感する仕草を見せながら聞いていた。
「貴女がここへ来たのも何かの縁ね。
私はもう20年もここにいるから、先輩だと思っていろいろ相談してね」
優しそうな人だった。他人の隼人を育てただけのことはある。
舞は安心しきって、質問をする。
「隼人君にもお世話になって、いろいろと
訊いたのですが、やっぱり…未来には戻れないのでしょうか」
「貴女は戻りたい?」
「当然です…」
舞は改めて考えた。そうだ、舞はそもそも未来に帰るため、
ここまで来たのだ。帰らずしてどうする。
「早く帰りたいです。でも、この時代でお世話になった人に
もう一度お礼だけは言っておきたいです」
「加藤主計守様に?」
「…最初にお世話になった人だから…」
「お礼を言う機会なら十分にあるわ。
だって、未来に戻れたとしても、10年先の話になんだもの」
「…やっぱり10年後なんですね」
「悲しまないで。貴女は一人じゃない。
私や隼人、加藤様がいるでしょう?
そりゃもちろん、家族や友達と会えなくなるのは
悲しいわ。でもそれは私達も同じ。共に乗り越えましょう」
「はい…」
「ごめんなさいね。私何の役にも立てなくて」
「いえっ!大丈夫です!私と同じ境遇の人が他にも
いるんだなって分かっただけでも嬉しいです…」
舞は必死に笑顔で返した。
本当は、心が張り裂けそうなほどに、辛いのだが、
隼人や幸江が元気にやってる姿を見て、
自分も見習わなきゃと思ったのである。