タイムスリップ物語 1

東京の、とある普通科高校の2年生達が、7月始めに
近畿方面への修学旅行に来ていた。
今回の物語の主人公となる相原舞も、その中の一人。
新幹線で大阪に着き、初日は午前中京都で大学訪問をした後、
それぞれのグループで夕方5時までの自由行動が許されている。
舞は、友人の南京子・桐野明里と共に行動をすることに
なっていた。友人の桐野明里は歴史が好きだということで、
住吉神社大阪城にも行くことになっていた。

大阪城に着いてから三人は天守閣の中へ入り、
城内の展示品を歩き見ていた。
桐野明里はその中のある書状を釘付けになって小声で読んでいた。
「明里さ、それ読めるの?」
南京子が話しかけた。
「ところどころ読める字はあるよ。あと、
人名とか見つけると楽しいの!」
「それは明里が知ってる人だからでしょ」
「うん」
「アタシ、ほとんど知らないから…」

二人が話している間、舞はさほど興味のない他の展示品を一通り
眺めて歩いた。端っこの方まで見ていくと、
何も展示されていないスペースの先に通路があることに気づく。
「(あれ…?この先にも、何かあるのかな…)」
“関係者以外立ち入り禁止”という文字はどこにも
見当たらない。かと言って矢印で通路が示されている
わけでもない。その先の通路はなんだか薄暗く、
はっきり言って気味悪げであった。
「(きっと通っちゃいけないトコなんだわ)」
舞がそう思った時、その先の通路の先から
かすかにエコーがかかった子ども達の笑い声が聞こえた。

「…誰かいるの?」

結はそっと覗き込んだが、照明一つなく薄暗いだけで
何も見えない。城の外からの声でないことは分かった。
…そこで、彼女は引き返せば良かったのだ。

しかし結は無意識のうちに、足を通路へと歩ませていた。
まるで暗闇に吸い込まれて行くかのように…

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しばらくして、京子は舞がいないことに気づいた。
「舞…?」
辺りを見回しても、舞らしき人物はどこにもいない。
「ちょっと、明里っ」
「な〜に?」
「舞がいないんだけど」
「え?舞ちゃんもう上に行っちゃったの?」
「団体行動なんだからいなくなっちゃリーダーのアタシが
困るのよ!上に行ってみましょ」
二人は順番に階段を登り、最上階まで舞を探したが
結局どこにもいなかった。
「何でいないの?」
京子はスマホを取り出して舞に電話をかけたが
全く繋がらない。
「まさか、何かあったんじゃ…」
明里は不安そうに呟く。
「そんな物騒なコト言わないで!さっきまでここに
いたんだから」
「じゃあ外に出ていったのかな?」
「もしかしたら外でふらついてんのかもしれない。
舞って、勝手にどっか行っちゃうような子じゃないと
私は思ってたんだけど!」
「探しに行こうっ」
「もちろんよ!」
二人は天守閣を降りていった。



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「……あれ?ここ…どこ?」

薄暗い通路を抜けると、そこはまるで時代劇のような
風景が辺り一面に広がっていた。
とても城内のセットとは思えないほどに広大であった。
高いビルや建物もない。
しかし空が見える。太陽もある。ここは外界なのか。

「パンフにはこんな展示載ってなかったのに…」

信じられなかった。
仮にここが大阪城の外だとしても、外にこんな映画村のような
セットはなかったはずだ。道を歩く人もみんな着物を着て、
ただ一人セーラー服の舞を周囲は怪しげにジロジロ見ながら、
通り過ぎて行くのだった。
もう一度四方を見渡してみると、
遠くに大阪城らしき城が見えた。
「あ…!もしかして大阪城?」
まさかさっきの通路でこんな遠くにまで来てしまったとは
思えないが、周りが昔の民家のような古い町並みばかりなので、
舞にとって記憶に新しい目印になるものは城くらいだった。
…とはいえ、その大阪城もどこか違う気がした。
天守の周りにいろんな廓がめぐらされているし、
lこからでも大きな石垣がたくさん見える。
「とりあえず、早く戻んないと…」
そう思って足を大阪城へ向けて歩き出した時に、
舞は誰かに肩を強く掴まれた。

「きゃっ」

驚いて振り返ると、同じく和服を来た大きな男が
こちらを見下ろしていた。その周りにも男性が何人かいて、
皆、腰に刀らしきものを帯びている。

「お前、何者だ?どこへ行くつもりだ?」

舞を引き止めた長身の男が話しかけた。