タイムスリップ物語 30

「舞…よせよ…何言ってんだよ」
「私、本気だよ」
「東軍や加藤殿が不利になるようなことを石田三成に教える気か?」
「そうじゃない。ただ、あの人達に伝えておきたいことや
聞いておきたいことがあるの」
「……っ」
隼人は声を押し殺すように尋ねた。
「命の保証はないんだ。俺は敵と同行はできない。
それでも行きたいのか…?」
「うん」
「万が一、お前の発言が徳川方を不利に陥れるようなことに
なれば、俺は、お前を処罰しなければいけなくなるかもしれない」
「うん」
「それだけの覚悟があるのか」
「……ある」
「未来に戻る気はねえのか」
「戻りたい。でも、このまま戻るのは嫌」
「………じゃあ行け。お前、けっこう頑固なヤツだしな…
これ以上言ったって聞かないだろ」
「隼人君…」
舞は隼人を顔色を伺う。
隼人はもう何も言わない。ここから先の行動は舞が決めねばならない。
舞は小西行長のいる陣所を振り返る。
「…もう一度、小西さんに会ってみるね…」
「…ああ」
そして陣所に再び足を踏み入れた…


「――――あれえ?君はさっきの…」
行長は舞を見た。
「どないしたん、道に迷ったん?」
「いいえ。私、小西さんに、折り入って相談があります」
「…?」
石田三成さんに会わせて下さい」
「!!」
今度ばかりは行長も驚きを隠せない。
眉間に皺を寄せて低い声で聞き返す。
「お嬢ちゃん…一体…何を、企んどるんや…」
「…石田さんに、どうしても、伝えたいことがあるんです。
だからその石田さんのお味方である
貴方のもとにいさせてもらえませんか?」
「ちょい待ち。三成はんへの言伝は、
僕が聞いたらアカンことか?」
「……」
「…そのようやな。まぁ…ええで。
特別や…三成はんに会わせたる」
「!ホントですか…?」
「ああ。君に特に害はなさそうやからね。
その代わり、ホンマに君が三成はんに会えるかは知らんし、
もし会えても、僕は君の命の保証はできひんよ」
「大丈夫です、それで」
「…おかしな子やな」
行長はふぅ、と息をつく。
そして糸目をうっすらと開き、舞の目を見る。
「真っ直ぐな目をしよる…どいつもこいつも、
君みたいな…憎らしいほど良い目をしよる」
「……」
「あ、せや…君、名は?」
「私は…相原舞です」
「舞か…うん、よろしゅう」
行長はニッコリと微笑んだ。
「(やっぱり…小西さんも良い人だった…)」
舞はホッとした。そして覚悟した。
これから先、小西行長と行動を共にするということは、
西軍についているのと同じようもの。
これが福島正則ら東軍にバレたら大変なことになるし、
二度と彼らの前に現れることもできない。
逆に、行長に舞が今まで東軍といたことがバレてもマズイ。
舞は気をつけなければと思った。
「あ、小西さん…ちょっと失礼します」
舞は一旦陣所を出て、隼人のもとに駆けつける。
隼人は不安げな面持ちで待っていた。
「どうだった?」
「これから、小西さんの元にいさせてもらうことができたよ」
「そうか…」
「…それで、私、隼人君のことは伝えてないんだけど…」
「いいよ。流石に俺が西軍にいたらマズいだろ。
俺は先に大垣に戻ってるから」
「ゴメンね…」
「謝るな。これはお前の賭けだ。できるとこまでやってみろよ」
「うん…」
これから先は、隼人とは別行動だ。自分の意思で動かねばならない。
悩み事や、秘密を打ち明ける相手はいない。
今日出会ったばかりの人達と、共に過ごすことになる。
「私、頑張るから。大垣についたら、また、会える…?」
「俺が見つけてやる。だからそれまで、達者でな」
隼人も何かをこらえるような口調でそう言い切った。
「じゃあな」
「ありがとう」
隼人は背を向けてもとの道を戻っていった。
舞は隼人の背中を見守り続けた。

「本当に…ありがとう、隼人君……」





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