タイムスリップ物語 33

月はかわって9月1日…

ほんの数日前に小西隊は石田三成のいる大垣城へ入城した。
大垣城には既に島津隊が到着しており、小西行長が着くやいなや
三成が出迎えてくれた。
そこで舞も小西隊の中から初めて石田三成を遠目に見やる。
少し小柄で細身、つり目で狐色の髪の男性だった。
「(あの人が…石田さん……)」
三成は行長を大いに労った。
「よく来てくれた、摂津…」
「遅うなりましてホンマにすんまへん」
「問題ない、先月下旬から東軍は何も仕掛けてこない。
俺は一時佐和山への襲撃にも備えてここを離脱したのだが、
特に何もなかった。それで、先日吉継や毛利隊などに
関ヶ原付近へ参集するよう要請しておいた」
関ヶ原…?」
関ヶ原古今東西をつなぐ関所…ここに構えて東軍を
迎え撃とうと思っている」
「それは…」
「詳細はまた軍議にて説明する」
二人の会話を舞は耳を立てて聞いていた。
「(今、関ヶ原って言ったよね…もうすぐ、戦が始まるのかな…)」
それから、ここへ来てふと隼人のことも思い出した。
「(そういえば…隼人君…ここにいるんだよね…)」
おそらく城下町のどこかにいるのだろうと察した。
舞はまず三成に話をするべきだと思った。
言葉はきちんと選ばねばならない。三成は西軍の大将のようなもの。
しばらくして、会話が終わったのか行長は隊の方へ戻ってくる。
行長は家臣に指示して部隊をよそへ連れて行かせた。
取り残された舞に、行長は歩み寄ってこう言う。
「三成はんと、話がしたいんやろ?」
舞は面を上げた。
「はい」
「ほな、僕についておいで」
行長は背を向け、城内へ足を進めた。舞も遅れまいと追いかけた。


連れてかれた先は、大垣城天守閣最上階。
そこに石田三成と、家臣・島左近がいた。
行長は舞を階段の下で待たせ、一人で登っていく。
少しして、行長が上から舞を手招きした。
舞は足元に気をつけながら急な階段を登り、
覗くようにして狭い空間を見渡した。
行長が急ぐよう手招きしてこちらへ座るように指示する。
舞へ目をやった三成は低い声で行長に尋ねる。
「摂津…その女は何だ」
「三成はんにどうしてもお話したいことがあるっちゅうて、
伊勢からここまで連れてきてやったんですわ」
「そんな身元不明な女子を連れてくるとは…敵の間者や忍び
だったらどうするつもだ、何を考えている!」
「身分こそ僕も知らん。せやけど、敵の間者やあらへん。
僕はそう確信してんねん」
「…外交に詳しい摂津の言うことだから、そうなのかもしれんな」
「では、取り次いでもらえますやろか」
「それとこれとは話が別だ!」
三成は声を荒らげた。
舞はビクついたが、行長は全く動じることもなく、
むしろ笑っていた。
「…ほらね、言うたやろ?」
と舞の方を見ながら囁く。
舞は少しドギマギしながらも、背筋を張った姿勢を崩さなかった。
三成は大きく息をついてから言った。
「そなた、いかなる理由があって俺を訪ねてきたのかは
これから聞いてやるが。だが、ここは女子が紛れ込んで
良いような場所ではない…くだらん理由なら今すぐ帰れ」
「っ少しだけで構いません…!ちょっとだけ、私の話を聞いて
欲しいだけなんです」
「それは俺が聞かねばならぬことか?!」
「とっても、大事な話なんです」
「………ならば、今ここで、俺と、摂津の前で話せ」
「!」
舞よりも行長の方が驚いた様子でコンタクトを送る。
三成は小さく頷いた。
「さぁ娘、言ってみろ」
ゴクリと息を飲んだ。
三成だけに告げるつもりが、小西行長にも、三成の家臣・左近(まだこの時点では名前を知らない)にも
話すことになってしまった。
三人の顔色を、伺いながら言葉を選ぶ必要があった。
舞はキッと引き締めて三成の顔を仰ぐ。そして……




「―――石田さんは、これで良かったと思っていますか?」